
経営者として手掛ける自社の経営要素の中で、
売上アップや利益アップを狙いとした集客、マーケティングなどの「攻め」の施策は、普段から関心を持ちやすいのではないでしょうか。
書店に行けば「稼げる」「儲ける」「年商アップ」「売上アップ」といったタイトルの本がいくらでも目につきます。
反対に、人事や経理、制度構築といった「守り」の施策は、なかなか手がつかないか、
もしくは手をつけたとしてもうまくいかないケースが多いのではないでしょうか。
そういった活動はすぐに売上や利益に繋がるわけではなく、中長期的な取り組みであることが多いです。
また、売上や利益に繋がったとしても、どこか定性的な面が多いため、「なぜ成果が出たのか」ということを証明することが難しい、という側面もあります。
このような理由から、経営において「守り」の施策は、なかなか優先順位を高くして手をつけることができないのです。
今回は「人事組織」についての向き合い方をお伝え致します。
この記事の目次
モチベーションを上げるための仕組みが、逆効果になることもある
経営者として、社員のモチベーションが上がるような取り組みをすれば、しっかり働いてくれるだろう、成果をあげてくれるだろう、と考えてませんでしょうか?
「成果報酬や歩合制を導入しよう。」
「残業削減や福利厚生などで社員の働く環境を改善しよう。」
こういったもちろん、制度としてうまくいくことはあります。
しかし、表面的に理解し、制度だけを取り入れたとしてもなかなかうまくいきません。
それらはあくまでも条件面でのモチベーションアップであり、おいしいものを食べ続けたら舌が肥えるということと同じで、与えれば与えるほど満足へのハードルが上がる一方です。
そして、そのハードルを越えることが会社として難しくなったときに、社員からの不満が募っていくのです。
更に、定量的評価だけでなく定性的評価をすれば、評価基準が曖昧になりがちになります。
「あいつはよくがんばっているから」
という理由で評価が高くなってしまうと、成果を出すことではなく、社長や上司に評価されるために働く、という内向きな社員が育つことになります。
そうなるとせっかくモチベーションを上げるために導入した様々な制度が裏目に出てしまいます。
その結果、成果の出ない組織になり、他の対処療法に走る、というマイナスのスパイラルに陥ることになります。
では、そういったマイナスのスパイラルに陥らないためにはどうしたらいいのでしょうか。
強い人事組織を作るために3ステップを意識する
まずは組織とはどういった機能をもつのか、ということから考えてみましょう。特に今回は人事面で考えてみます。
人事組織について、3つのステップで解説致します。
1.設計図を作成する
組織の設計について、経営者が決めるべきことはたくさんあります。
企業理念、達成したいビジョン、年間売上目標、顧客のぺルソナ、貢献できる範囲など。
しかし、人事の設計に関しては、どれだけの設計図を作ることができているでしょうか。
その設計図を作っていないことから、属人的な組織になり、社員のモチベーションに左右される組織になるわけです。
製品・サービスの品質は、設計する段階で決まるわけです。設計がないのであれば、品質にばらつきがある(社員の働きや成果にばらつきがある)のは当然です。
人事における設計図を作成する場合に必要なことは、
前提として「成果や貢献にフォーカスする」ということです。
組織が決めた方向性や、決めた時期までにたどり着きたい場所を明確にすること。
どんな理念をもち、どんなビジョンをもち、
そのためにはどこまでの目標を達成したいのか、いつまでにそうなりたいのか。
これが「成果にフォーカスする」ということです。
そして、そのために自社として貢献できる価値はこういったことであり、顧客の対象としてはこういった人たちである。
これが「貢献にフォーカスする」ということです。
この「成果と貢献にフォーカスする」ということは、経営者の頭の中にはあるかもしれません。しかし、それを社員の頭の中にまで落とし込むことができるでしょうか。
「あなたの会社がフォーカスしている成果と貢献は何ですか?」という質問に対して、社員全員が同じような回答をすることができるでしょうか。
まずは自社がフォーカスする、成果や貢献を明確にし、それを社員に伝えましょう。
そして、社員一人ひとりが成果や貢献を出しやすいように設計する必要があるのです。
成果や貢献にフォーカスする方法とは、社員の強みにフォーカスするということ。
その人がどんなことなら成果を出せるのか、自分の強みを活かしてどんな貢献を社内外に提供することができるのか、ということを知りましょう。
2.社員の強みを知る
社員の強みを知るためには、その人の本質を知ろうとする姿勢から始まります。
いくら成果にフォーカスするといっても、出てきた結果にだけ目を向けるのではありません。
例えば、
-
- どのようにしてその結果を出したのか
- 他の人と違うやり方はあるのか
- どんなことなら人の3倍の速度で動くことができるのか
- どんなことなら人より着手が早いのか
- どんなことなら生産性が高いのか
など、このようなことに目を向けることがとても大切です。
具体的なやり方や働き方は最低限伝える必要はあるでしょう。
しかし、人は合理的な部分だけでなく、感情的な部分で動くことが多々あります。全てをトップダウンで決めてしまうと、人は「自分らしさを発揮したい」という感情が芽生え、会社の考え方に反発してしまいます。
自分が自分らしくいることができ、自分の強みを最大限発揮することができれば、条件的なモチベーションアップ(給料アップや福利厚生の充実など)などなくても、自然と成果を出す行動にフォーカスするようになります。
社員の強みを知る方法については、才能・強み活用
3.強みを活かした人事組織をつくる
その人の本質的な強みが見えてきたら、その強みが発揮できる仕事を与えるようにしましょう。
既にある業務を与えるだけでなく、挑戦的であり、個人にとっても組織にとっても成長できる機会を与えるといいでしょう。
誰にでもできることを黙々とやりたい人は少ないものですし、これからはそういった仕事は減ってくることでしょう。人間が手掛ける付加価値が少なくなるため、機械に取って代わられるためです。
自分の強みを活かせるチャレンジングな職場であれば、誰しも興味・関心が向きます。仕事が楽しみになり、働くことに対してポジティブになり、成果を出しやすい職場になります。
そのためには、会社として担当してほしい仕事と、社員が担当したい仕事をマッチさせる必要があります。
会社が期待していること、そのためにはその人の強みが必要であること、をすり合わせる時間を設けましょう。
「会社が期待していること」を明確にすることで、その人に役割を与えることができます。役割を与えられた人間は強くなります。入社した当時は頼りなかった社員でも、2年目になり、後輩ができたとたんに頼もしい社員に成長した、ということを見たことがあるのではないでしょうか。
それは、「先輩」という立場、「教える人」という役割を与えられたために大きく成長したのです。それぐらい、人に役割を与えるということは、人が成長するきっかけになるのです。
社員に仕事や役割を任せる際に注意したいのは、「その人にしかできない」という範囲を絶妙に設定する必要がある、ということです。
日本に1人しかいないような、国宝級の職人がいないと成り立たないような仕事では、本人に与えるプレッシャーも相当なものになりますし、そもそも会社のビジネスモデルとして崩壊しています。
かといって、社員全員の誰もができたり、大学生や高校生のアルバイトを雇っても手に余るような仕事であったり、ということでは社員の強みを活かせているとは言い難いでしょう。
「少なくとも社内で、この仕事において適任なのは君だけだ」と言えるような範囲の仕事であれば、本人としても俄然やる気がみなぎってくるものです。
そういった仕事の任せ方ができるかどうかによって、会社としても社員としても、成果や貢献にどれだけフォーカスできるかが変わってくるでしょう。
組織作りはパズルの完成に近い
組織作りをパズルに置き換えると、
パズルの完成図が、会社のビジョンであり、いつまでに完成させたいかが目標です。
そのために必要なピース1つひとつが、組織に所属する人たちです。
まったく同じ絵柄、形は1つもありません。
ピースには基本的に凹凸があり、出ている部分は強み、へこんでいる部分は弱みに置き換えられます。
会社としてどのようなピースが必要であるかを明確にすること、
社員がどのような特徴(強み・弱み)があるのかを明確にすること、
そういったことがパズルを完成させるために必要です。
組織は人が動かしているので、組織そのものも生き物であるといえます。
完成させたい絵柄は変わらないかもしれませんが、ピースは出たり入ったりします。
そうすると、時期によっては必要なピースの形が変わってくるでしょう。
なので、人が変われば人の配置や採用したい人も多少変化していきます。
全体像を見据えながら、ピースも見るという、まさに鳥の目・虫の目が必要です。
現在、組織で何が起こっているか、そして必要な人材はどういった人か?
経営者としていつも答えられるようになると強い組織作りが可能になります。